世界が衰退した近未来を描いた映画『ブレードランナー』は、その後のSF作品で描かれる世界を変えてしまうほど多大な影響を及ぼした作品でした。しかし、そんな『ブレードランナー』も実はそれまでのたくさんの映画の影響を受けていたのです。
『ブレードランナー』作品情報
タイトル | ブレードランナー(Blade Runner) |
監督 | リドリー・スコット |
公開 | 1982年7月3日 |
製作国 | アメリカ/イギリス |
時間 | 1時間57分 |
あらすじ
(引用:MIHOシネマ)
近未来2019年
映画『ブレードランナー』の舞台は西暦2019年。
そこには映画が製作された1982年から続く、リアルな世界が描かれていました。
酸性雨の降り続く暗くて陰気な世界ですが、それこそがリドリー・スコット監督が作りたかった世界でした。
それと同時に監督は自身が手がけた『エイリアン』ともつながる世界を作ろうと考えていました。
『エイリアン』でノストロモ号に乗らなかった、地球に残された人々の社会を『ブレードランナー』の中で描こうとしました。
つまり『エイリアン』と『ブレードランナー』は同じ世界の出来事で、『ブレードランナー』の未来が『エイリアン』という設定になっているのです。
そんな監督の想いが伝わったのかどうかは分かりませんが、捜査を終え家に帰るデッカードが自分の家のエレベーターに乗るシーンは、『エイリアン』へのオマージュだと美術スタッフは語っていました。
監督が細部までこだわって作り上げた『ブレードランナー』の世界は、それまでのSF作品が描く未来世界とは大きく違っていました。
様々なものが入り乱れる無国籍な街並みで特に目立つのは、漢字や芸者などアジア的なイメージです。
その世界はその後のSF作品に大きな影響を与えていて、『ブレードランナー』はSF作品が描く未来の分岐点となった作品でもあったのです。
ちなみに監督のこだわりが強すぎて予算が足りなくなったのため、『ブレードランナー』の中には他の映画のセットや小道具などがたくさん使われています。
その1つが警察署のシーンで、警察署の外観のてっぺんの部分は『未知との遭遇』のUFOの内部を改造したものが使われています。
その警察署のてっぺんから見た外観は、1927年のドイツ映画『メトロポリス』に登場するバベルの新塔のスケッチとそっくりです。
また『ブレードランナー』に登場するたくさんのビルは、ビルのミニチュアの写真を並べて撮影されていますが、『メトロポリス』のビルのスチールも使用したそうです。
なので『ブレードランナー』の世界観は、古典SF映画『メトロポリス』の影響を受けて作られています。
Complete Metropolis / [Blu-ray]
『ブレードランナー』の世界観
サイバーパンクな2019年の世界を描くことにこだわりを見せたリドリー・スコット監督ですが、それは建物だけでなく小道具などの細かい部分まで及んでいます。
地球に残された貧しい人々の混沌とする世界を、衣装や小物などで見せようとしています。
レプリカントのテスト「フォークト=カンプフ」や写真を分析する「エスパーマシン」など未来的なものを見せながらも、どこか衰退した雑多的な感じがします。
その雑多的な感じは遺伝設計技術者のセバスチャンの家の中でも描かれています。
たくさんの人形に囲まれて暮らすセバスチャンの家は、映画『大いなる遺産』(1946年)に登場するミス・ハヴィシャムの家をイメージして作られています。
たくさんの人形が置かれている家を作ることで、ミス・ハヴィシャムと同じようにセバスチャンがガラクタに埋もれて生活している様子を描きました。
レイチェル
『ブレードランナー』のメインキャラクターであるレプリカントは、それぞれ個性が強くとても印象に残ります。
その中でも他のレプリカント達と違う存在がレイチェルで、彼女はタイレルによって作られた特別なアンドロイドでした。
そのレイチェルを演じたのはショーン・ヤングですが、当時彼女は新人の女優でした。
リドリー・スコット監督は40年代をイメージする衣装を身につけた彼女を見た時、映画『ギルダ』でギルダを演じたリタ・ヘイワースを想像しました。
映画『ギルダ』は1940年代〜1950年代に作られた犯罪映画フィルム・ノワールを代表する作品で、監督は『ブレードランナー』をフィルム・ノワール的作品にしたいと考えていました。
また監督にとってリタ・ヘイワースはアイドル的存在だったこともあり、『ブレードランナー』におけるレイチェルは『ギルダ』へのオマージュでもありました。
それと同時にレイチェルは監督のイメージするフィルム・ノーワルにとって重要な存在だったのです。
そのレイチェルとデッカードのシーンで、監督はライティングにもこだわっています。
デッカードがレイチェルにキスしようとする一連のシーンがありますが、この時デッカード演じるハリソン・フォードの顔に白いライトが強く当たっています。
これは監督の演出の1つであり、また映画『暗殺の森』へのオマージュになっています。
『暗殺の森』の冒頭で同じような照明の演出があって、それと同じように2人の感情の高まりを表すためのライティングになっていました。
ユニコーン
1984年に公開された『ブレードランナー』ですが、この作品には様々なバージョンがあります。
最初の試写会のバージョン、その後のアメリカ公開バージョン、公開10周年のディレクターズ・カット版、公開25周年のファイナルカット版など。
その中にデッカードが森の中にいるユニコーンの夢を見ているというシーンが追加されたバージョンがあります。
監督は最初からこのシーンを入れたかったのですが、意味が分からないとカットされたシーンでした。
しかし監督にとってユニコーンのシーンは「デッカードはレプリカントなのか」と観客に疑問を持たせる大切なシーンで、念願かなってやっとユニコーンのシーンが追加されました。
監督にとって重要なこのシーンは、ジャン・コクトー監督の『美女と野獣』の影響を受けています。
野獣が美女に取り憑き美女を救うために英雄が森から現れるという夢の構想だったそうで、監督は英雄のイメージをユニコーンにしました。
このユニコーンがラストシーンで、ガフのユニコーンの折り紙へと繋がるのです。
まとめ
今でもカルト映画として絶大な人気を持つ『ブレードランナー』はSF映画にとって重要な存在で、その世界はその後のSF作品に大きな影響を与えました。
そこにはリドリー・スコット監督のこだわりが詰まっていて、些細なことにも妥協しなかったことから誕生したのが『ブレードランナー』のサイバーパンク的な近未来だったのです。