映画の概念を変えたとされ、巨匠と呼ばれるジャン=リュック・ゴダール。しかし彼は1960年代後半になると、政治色の強い作品を手がけるようになり「大衆映画は作らない」と決めてしまいます。映画『グッバイ・ゴダール!』では、「革命」にのめり込んでいく当時のゴダールの姿を見ることができます。
『グッバイ・ゴダール!』作品情報
タイトル | グッバイ・ゴダール!(Le Redoutable) |
監督 | ミシェル・アザナヴィシウス |
公開 | 2018年7月13日 |
製作国 | フランス |
時間 | 1時間47分 |
ジャン=リュック・ゴダール
その独創性で自由に映画を創り映画の概念を変えたとされる巨匠ジャン=リュック・ゴダール。
『グッバイ・ゴダール!』の冒頭「誰もが彼の才能を認めた」と言うように、ヌーヴェル・ヴァーグの代表とされる映画監督でした。
1960年の『勝手にしやがれ』1964年の『はなればなれに』さらには1965年の『気狂いピエロ』など、次々と彼の代表作となる作品を作り続けていました。
作品の中で政治を面白く語っていたのがゴダールでしたが、やがて映画の中に政治色が強くなっていきます。
「中国女」
それが顕著に現れたのが1967年に公開された『中国女』でした。
毛沢東思想でもあるゴダールは、1966年に中国で起こった文化大革命の影響を受けるフランスの若者達の様子を描きます。
劇中で学生達はラジオ北京の放送を聴き、「革命」への思いを強めていきます。
ゴダールはこの作品の中で「革命的集団において自由主義は有害である」「僕らは親の世代とは違うべきだ」「革命は階級が別の階級を覆す過激な行動なのだ」と、社会に不満を抱える若者の気持ちを強烈に映し出していました。
その後、この作品のに登場する若者達のように1968年にはフランスで学生や労働者による5月革命が起こり、ゴダールは市民の不満を予言していたことになるのですが、『中国女』自体は『グッバイ・ゴダール!』の中でも描かれているように作品としては評価されませんでした。
カメラワークや「赤」「青」「黄」といった配色などゴダールらしい作品になっていますが、政治色の強い内容から批評家をはじめ映画ファンからも、辛辣な言葉を浴びせられます。
それがまたゴダールの政治的作品への思いを強め、彼は「大衆作品は作らない」と決意することになったのです。
そしてどんどん「革命」へとのめり込んでいったのでした。
五月革命
1968年5月、シャルル・ド・ゴール政権に対して不満を持った労働者が反政府運動を起こします。
当時世界中で若者達による政府や権力に対する運動が起きていたことも重なり、フランスで起きた運動は若者達も交え「5月革命」へと呼ばれる運動になっていきました。
この「革命」にジャン=リュック・ゴダールは意欲的に参加し声を上げます。
そしてそれはカンヌ映画祭へ発展します。
1968年5月10日から開催されていた第21回カンヌ国際映画祭でしたは、5月19日にゴダールやフランソワ・トリュフォーが会場に姿を見せカンヌ映画祭の中止を訴えたのです。
ゴダール達は「ドゴール政権下の映画製作と産業構造に意義を申し立てる」と発表しました。
結局この5月19日をもってカンヌ国際映画祭は中止となり、これをきっかけに5月革命はさらに大きな運動になっていきました。
ゴダールとベルナルド・ベルトルッチ
イタリアの映画監督ベルナルド・ベルトルッチはフランス映画を愛していて、彼にとってゴダールは師匠でもありました。
『グッバイ・ゴダール!』の中にもベルトルッチは登場していますが、ゴダールは彼の前で今までの自分の作品を「クソ映画」だと言います。
ベルトルッチは「新たな映画づくりの道を築き上げた作品だ」と反対しますが、ゴダールはベルトルッチに意見を受け入れません。
そして「お互い敵同士だ」「絶交だ」と宣言してしまいました。
これをきっかけにゴダールとベルトルッチの間には距離が生まれてしまいました。
この後ベルトルッチは1970年に『暗殺の森』という作品を作りますが、この作品は主人公であるファシストの青年が反ファシストの教授を殺害するという物語でした。
この作品名の中で反ファシストの教授の電話番号と住所が出てきますが、これは当時のゴダールの電話番号と住所でした。
ベルトルッチはのちに「冗談のつもりだったが、もしかしたら自分の中に革命家であり革命的な映画を作っているわが師ゴダールを殺したいと思っていたのかもしれない」と言っています。
また「ゴダールが唯一絶対であり、彼に従わなければいけないとは思わない」と述べ、「彼は先導者にはなりたくなかったので、あのやり方を選んだんだと思う」とゴダールへの想いを語っていました。
まとめ
政治色を強めていくジャン=リュック・ゴダールの姿を描いた映画『グッバイ・ゴダール!』では、1960年代終わりのゴダールの姿を見ることができます。
愛する人や親友さえも拒絶してしまうゴダールは、「革命」への想いが強くなるれななるほど孤独になっていってしまいました。
そんなゴダールの姿を当時彼の1番近くにいたアンヌの視点で描かれた作品が、『グッバイ・ゴダール!』です。