映画『突然の訪問者』裏切り者と呼ばれた監督の心の叫び


エリア・カザン監督がが作った映画『突然の訪問者』。低予算で作られ日本では劇場公開されなかった映画ですが、この作品にはハリウッドで干されてしまった監督の悲痛な叫びが込められています。登場人物のセリフには「赤狩り」に翻弄され「裏切り者」と呼ばれた監督の想いが託されていました。

『突然の訪問者』作品情報

タイトル突然の訪問者 (The Visitors)
監督エリア・カザン
公開1972年2月2日
製作国アメリカ
時間1時間28分

あらすじ

ベトナム帰還兵のビルは、内縁の妻マーサと生まれたばかりの息子ハルの3人で、マーサの父親で売れっ子作家のハリーが所有する田舎の小さなコテージで静かに暮らしていた。

そんなある日、ビルのベトナム時代の戦友だったマイクとトニーが不意に訪ねてくる。

何も知らないマーサは2人を招き入れるが、ビルは2人の突然の訪問に狼狽する。

実は3人の間には忘れることの出来ないベトナムでの「因縁」があったのだ。

(出典:ウィキペディア

監督の心の叫び

『突然の訪問者』を作ったエリア・カザン監督は、映画『波止場』ではアカデミー賞作品賞と監督賞を受賞し、その翌年には『エデンの東』を公開するなどハリウッドを代表する監督の1人でもありました。

しかし彼はハリウッドを襲った「赤狩り」で仲間を売った「裏切り者」という過去があり、やがて彼はハリウッドから干され仕事ができなくなってしまいました。

そんな監督の悲痛な想いがこの『突然の訪問者』の登場人物に隠されていました。

密告者ビル

ベトナム帰還兵のビルの元を共にベトナムで戦った軍曹と兵士が訪ねてきます。

彼らはビルの密告により軍法会議にかけらえ刑務所で2年間過ごしていました。

そんな仲間を裏切ったビルの姿は、「赤狩り」でハリウッドの仲間を売ったエリア・カザン監督自身が重ねられています。

戦友を裏切ったことで苦しみ続けまた裏切った仲間に襲われるのではないかと怯え続けていたビルは、ハリウッドで映画を作り続けるために仲間を売ったエリア・カザンそのものなのです。

軍曹マイク

裏切られた怒りからビリーを探し彼を訪ねてきた軍曹のマイク。

彼は裏切られて側でしたが、彼のセリフにもエリア・カザンの想いが込められていました。

仲間の名前を売ったエリア・カザンは、その後「裏切り者」呼ばわりされ世間から冷たい目を向けられるようになってしまいます。

その気持ちが軍曹の「お前に何がわかる」「命令されたんだ」というセリフに現れています。

マイクの戦地でいつ撃たれるか分からなかった恐怖は、赤狩りでいつハリウッドから追放されるか分からなかったエリア・カザンの恐怖と重ねられています。

または優等生だったんだ」「いい兵士だった」というセリフは、アカデミー賞で監督賞を受賞し世間から認められていた映画監督だったという叫びでもありました。

さらにマイクと一緒ビリーを訪ねてきた帰還兵のトニーは、映画の最後の方で「突然ルール変更するのは反則だ」と言います。

これはハリウッドで映画を作り続けることができるという条件で仲間を売ったのに、結局そのことが原因で映画を作れなくなってしまったエリア・カザンのハリウッドに対する訴えでもあったのです。

 

作家ハリー

ビルは恋人のマーサの父が所有する家で暮らしていて、父のハリーは有名な作家でした。

しかし彼は最近ではいい作品を書くことができていません。

そんな父に対してマーサは「昔の作品は真面目で素晴らしかった。でも今は自暴自棄で書き続けているだけ」と言います。

この言葉は父ハリーのことを言いながらも、ハリウッドで映画が作れず苦しんでいるエリア・カザンのことを指していました。

「共産主義と俺たち」とハリーが言うように、ハリーにもエリア・カザンの姿が重ねられています。

ハリーは「昔とは何もかも変わってしまった。人が変わった。」と嘆きますが、この言葉は世間から冷たい目を向けられているエリア・カザン自身の言葉でもありました。

まとめ

ハリウッドで名声を手にしたエリア・カザンが晩年に作った映画『突然の訪問者』。

それはハリウッドから干され映画を作らなくなってしまったエリア・カザンの心の叫びが詰まった作品でもありました。

映画を作り続けるために仲間を売ったはずが、「裏切り者」とされ映画を作れなくなってしまった彼自身の思いが登場人物に重ねられていたのです。