1972年型のグラン・トリノを大切にしているウォルターは過去に取りつかれてしまっている老人です。差別主義者でもある彼の心を少しずつ溶かしたのは隣に住むモン族の一家でした。ウォルターはモン族の家族と関わることで、自分の過去と決着をつける方法を見つけたのでした。
『グラン・トリノ』作品情報
タイトル | グラン・トリノ(Gran Torino) |
監督 | クリント・イーストウッド |
公開 | 2009年4月25日 |
製作国 | アメリカ |
時間 | 1時間56分 |
Rotten Tomatoes
『グラン・トリノ』あらすじ
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妻に先立たれ、一人暮らしの頑固な老人ウォルト。
人に心を許さず、無礼な若者たちを罵り、自宅の芝生に一歩でも侵入されれば、ライフルを突きつける。
そんな彼に、息子たちも寄り付こうとしない。
学校にも行かず、仕事もなく、自分の進むべき道が分からない少年タオ。
彼には手本となる父親がいない。
二人は隣同士だが、挨拶を交わすことすらなかった。
ある日、ウォルトが何より大切にしているヴィンテージ・カー<グラン・トリノ>を、タオが盗もうとするまでは――。
ウォルトがタオの謝罪を受け入れたときから、二人の不思議な関係が始まる。
ウォルトから与えられる労働で、男としての自信を得るタオ。
タオを一人前にする目標に喜びを見出すウォルト。
しかし、タオは愚かな争いから、家族と共に命の危険にさらされる。
彼の未来を守るため、最後にウォルトがつけた決着とは――?
(出典:https://warnerbros.co.jp/home_entertainment/detail.php?title_id=2661/)
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グラン・トリノ
元フォードの組立て工だったウォルターの大切な車はグラン・トリノです。
アメリカの自動車メーカーのフォードの車グラン・トリノ。
ウォルターは自分がハンドルを組み立てた1972型のグラン・トリノを大切に保管してます。
しかも自分が普段乗り回している車もフォードの車です。
これだけでもウォルターがどれだけアメリカの車を愛しているか分かります。
それなのに息子のミッチはトヨタの車に乗り、トヨタの車をセールスしています。
ウォルターはいつ頃からかそんな息子と距離が生まれていました。
グラン・トリノは大きい車でいわばアメリカの象徴です。
これが彼の差別主義とも繋がっています。
アメリカ車の業績は日本車に奪われてしまいます。
そしてアメリカの自動車産業は落ちていってしまいました。
フォードは経営破綻しませんでしたがフォードと同じようにアメリカの自動車産業を支えてきたGMとクライスラーは金融危機の時に破綻してしまいました。
ウォルターにとってはアメリカの象徴がアジア人によって壊されてしまったのです。
だから彼はあんなにもアジア人を嫌っているのです。
ウォルターがグラン・トリノを大切にし荒廃したデトロイトに住み続けるのは、フォードで働いてきたアメリカ人としてのプライドがあったからです。
ウォルターとモン族一家
ウォルターは露骨な差別主義者です。
平気で差別用語を連呼します。
アジア人に対しても黒人に対しても、さらには同じ移民に対しても汚い言葉を使っています。
中でもアジア人に対しての差別はひどいのですが、それは自動車産業を日本人によって潰されてしまったこととそれ以外にもう1つ自分の過去のトラウマが関係していました。
ウォルターは退役軍人で朝鮮戦争の時に朝鮮で戦っています。
その時に自分が行ったことをどうしても忘れられず、後悔していたのです。
その傷を引きずったままこの年齢まできてしまったウォルター。
彼がアジア人を嫌うのは、戦争のことを思い出したくないというのもあったのかもしれません。
しかしウォルターは口では汚い言葉を使ったりして差別用語も言いますが、それでも軍人の心は持ち続けている人です。
隣のモン族の一家がチンピラに襲われていたら、助けてあげるのです。
どんなに差別していても、弱き者を助けるのがウォルターだったのです。
そしてそのことから次第にモン族一家と交流が始まります。
スーはウォルターを家に招き、オープンに接します。
そんなスー広い心から少しずつウォルターは変わり始めました。
特にスーの弟タオといるようになってからは大きく変化し始めました。
自分の息子にしてやれなかったことを埋め合わせるように、タオの父親のように厳しく優しく接し彼を男として育てるのです。
そんなふれあいの中でウォルターの固まっていた心は溶け始めました。
ウォルターの懺悔
自分が朝鮮戦争で行ったことを懺悔できずに引きずり続けているウォルター。
心におった傷がいつしか彼を頑固ジジイにしてしまっていました。
「この世で最悪な気持ち」を毎日持ち続けていたウォルターは、ついに懺悔な時を迎えます。
自分が病気でこの先短いということもあったと思いますが、スーとタオのためにそして何よりも自分のために、彼はモン族のチンピラたちの元に丸腰でたった1人で向かったのでした。
自分が抱えてきた問題に決着をつけるために、彼は贖罪したのです。
銃で撃たれた地面に倒れたウォルターは、十字架に架けられたキリストのように腕を伸ばし十字になっていました。
この姿で彼が贖罪をしたことが分かります。
第一騎兵師団の紋章のついたライターを手になくなったウォルター。
彼は戦争で行ってしまった自分の行動にけじめをつけたのでした。
そして長年こだわり続けてきたアメリカの象徴とも別れました。
スーやタオと関わることで心が溶けて、時代の変化をやっと受け入れることができたウォルターは、自分の思いをタオに引き継ぎます。
戦争でもらった勲章をタオにつけることで父親としての想いを彼に引き継ぎ、そしてグラン・トリノを友達として彼に遺したことで古き良きアメリカは引き継がれていったのです。
彼はやっと自分の持っていた者を渡す相手を見つけることができたのです。
それは息子たちではなく、本気でぶつかり合えたタオだったのです。
まとめ
過去にとらわれ続けてきた老人ウォルター
戦争での体験だけでなく、町は人全てにおいて彼は過去のままで止まっていたのです。
そんな彼を前に進めるようにしてくれたのがスーやタオでした。
どんなに歳を取っても人は変わることができる、それは決して恐ろしいことではないことをウォルターが教えてくれています。
変化の時は心の拠り所が必要なことも伝えています。
ウォルターにとってそれがモン族の家族だったのです。
ずっと心に傷を負ったままの人生だったウォルターは、やっと贖罪でき新しい人生を踏み出すことができるのです。
それはこの世ではなくなってしまいましたが、天国で最高の奥さんと一緒にいるはずです。
そしてずっとタオやスーを見守ってくれているでしょう。