貴族に仕える1人の執事の人生が描かれた『日の名残り』。執事の物語でありながら、第二次世界大戦へと向かうヨーロッパの流れも描かれていました。ここでは執事が使えた貴族の男を見ながら当時のイギリスの貴族院について学んでいきたいと思います。
『日の名残り』作品情報
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タイトル | 日の名残り(The Remains of the Day) |
監督 | ジェームズ・アイヴォリー |
公開 | 1994年3月19日 |
製作国 | イギリス/アメリカ |
時間 | 2時間14分 |
Rotten Tomatoes
『日の名残り』あらすじ
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1958年、英国の名門ダーリントン館の老執事スティーブンスは、かつてともに働いたメイド頭のミス・ケントンを訪ねる旅にでる。
互いに好意を抱きながらも、職務に忠実なあまり、自分の思いを伝えられなかったスティーブンスの脳裏に、過去の日々が去来する…。
(出典:https://www.nhk.or.jp/bscinema/calendar.html)
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イギリスの宥和政策
『日の名残り』で執事のスティーヴンスが使える貴族のダーリントン卿。
この映画の時代は第二次世界大戦直前の物語ですが、ダーリントン卿の考えはドイツに対して友好的な考えを持っていました。
映画の中でダーリントン卿はドイツ貴族の友人ブレマンが、第1次世界大戦後のベルサイユ条約によって追い詰められ最終的に自殺したことを悔やんでいました。
そのためドイツに対して友好的な考えを持っていて、ドイツの再軍備を認める考えを持っていました。
ドイツに対する重要な会議がこダーリントン卿のお屋敷で開かれたのですが、ここに集まった多くの貴族達はダーリントン卿と同じくドイツに対して友好的な考えを持っていました。
この中で唯一ドイツに対して厳しい考えを持っていたのはアメリカからやって着たルイス議員だけだったのです。
ダーリントン卿で会議が開かれたのは1936年。
当時のイギリスの首相はスタンリー・ボールドウィンでした。
彼もまた貴族出身であり、彼はドイツに対して融和的な考えをも持っていました。
当時のイギリスの貴族院議員達はドイツのヒトラーの脅威を見抜いておらず、ドイツが再び軍隊を持つことも認めようとしていました。
ボールドウィンの後に首相になったネヴィル・チェンバレンもまた同じく宥和政策を打ち出します。
彼は貴族院ではなく下院でしたが、保守党党首として首相になりました。
最終的にはこの彼の下した宥和政策がヒトラー率いるドイツ軍の暴走を産むことになってしまったのです。
『日の名残り』ではダーリントン卿はじめ、当時の貴族達がドイツに対して友好的であることが描かれていて、さらに庶民達を馬鹿にしているような描写もありました。
イギリスの議会はすでに貴族院と庶民からなる下院でなりたっていましたが、政治を司るのは貴族である自分たちだという考えを持った貴族達もまだまだ多かったのです。
執事に人生をかけた男
ダーリントン・ホールでダーリントン卿に使えるスティーブンス。
執事として誇りを持っていて、それはダーリントン卿も認めています。
彼のおかげで全てがうまく回っているのでした。
そんな執事として生きがいを持つスティーブンスは執事であることが彼の人生なのです。
彼の父親もまた執事であり、「執事としての品格が重要である」というのがこの親子の考えでした。
その品格を守るためにスティーブンスが守り通したことは
[box class=”red_box” title=””]・恋愛をしない
・主人には意見しない[/box]
この2つを徹底的に貫いたスティーブンス。
しかしこれは多くの過ちを招いてしまいます。
ドイツに対して友好的であるダーリントン卿がユダヤ人のメイドを首にしても、ダーリントン卿に対して意見することなく彼の指示を守ります。
ダーリントン卿の甥から「ドイツに騙されているとダーリントン卿伝えてくれ」と言われても、スティーブンスは何も行動を起こしませんでした。
彼は最後まで執事としての品格を守り、主人に意見せずに使えたのでした。
結果それによってイギリスはドイツと戦争することになり、ダーリントン卿の甥は戦争でなくなりました。
そしてダーリントン卿自身も戦争責任を問われる形となり裁判にかけられてしまうことになったのです。
夕暮れが1日で1番いい時間
ミス・ケントンに会うために初めてたびにでたスティーブンス。
彼はその旅で自分の過ちだらけの人生に気がつきました。
あれほど誇りを持って使えていたダーリントン卿のことさえ知らないと言ってしまいました。
もしかすると彼は当時からダーリントン卿の過ちに気がついていたのかもしれません。
執事として自分の思いを封印しダーリントン卿に使えていたのでしょう。
そんなスティーブンスはミス・ケントンに会い彼女から「夕暮れが1日で1番いい時間。みんなそれを楽しみに待っている」と教えてもらいます。
その言葉を聞いて「なるほど」と気がついたスティーブンス。
執事としてダーリントン卿に全てを捧げてきた彼は、自分のために生きてきませんでした。
気がつけば自分の人生も夕暮れ時になっていました。
ミス・ケントンの言葉を聞いた彼は、人生の終わりの時期を1番いい時期にするために、少しだけ生き方を変えてみようと思いました。
それがスティーブンスがこの旅を通して学んだことだったのです。
ルイスのもとで新たに執事となったスティーブンス。
彼は自分の人生の夕暮れを楽しみに待つようにようになりました。
彼は残りの人生をきっと自分のために生きていくはずです。
学びポイント
執事として生きることを誇りとしていきた男スティーブンスの人生を描いた『日の名残り』ですが、この映画を見ていると当時のイギリスの貴族の考えを知ることができます。
イギリスの中に根強く残っていた貴族達の対ドイツへの宥和政策。
歴史から考えると、これがやがて第二次世界大戦へと繋がってしまうのです。
歴史的背景を考えながらこの映画をみると、ダーリントン卿のお屋敷で行われていたことが、どれほど恐ろしく危険なことだったかということを感じることができます。
『日の名残り』は私たちに当時のイギリス貴族の政治的思考を教えてくれる映画でもありました。