黒澤明監督作品の『天国と地獄』。カラー時代にあえてモノクロで撮影したのは監督の演出の1つでした。さらに前半は全て部屋の中だけのシーンというように、たくさんの黒澤明のこだわりが詰まった作品になっています。
『天国と地獄』作品情報
タイトル | 天国と地獄 |
監督 | 黒澤明 |
公開 | 1963年3月1日 |
製作国 | 日本 |
時間 | 2時間23分 |
Rotten Tomatoes
『天国と地獄』あらすじ
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製靴会社の専務権藤の息子と間違えられて、運転手の息子が誘拐された。
要求された身代金は三千万円。
苦悩の末、権藤は運転手のために全財産を投げ出して三千万円を犯人に受け渡し、無事子供を救出する。
非凡な知能犯の真の目的とは。
(出典:https://eiga.com/movie/20372/)
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こだわりの演出
『天国と地獄』ではいろんな場面で黒澤監督のこだわりが込められています。
前半の展開へのこだわり
『天国と地獄』の前半は全て権藤の家の中だけのシーンで展開します。
冒頭の靴の話から誘拐の電話がかかってくる場面、警察がやってくるまで、前半の約1時間は全て部屋の中だけで物語が続きます。
まるで舞台を見ているような感じさえしてきます。
画面が変わらないと観客は飽きてしまいがちですが、黒澤監督は飽きないような工夫を施しています。
多くのシーンが長回しで取られていて、主演者達のNGを出せない緊張感が観客にも伝わってきます。
その緊張感が物語の誘拐の緊張感と重なり、観客は部屋の中だけの1時間に全く飽きることがないのです。
また人物が次々出たろ入ったりすることで変化をつけ、飽きないような工夫がされています。
モノクロへのこだわり
1963年に公開された『天国と地獄』。
時代的にはカラーで映画を作ることができる時代でしたが、黒澤監督はあえてモノクロで『天国と地獄』を撮影しています。
それは有名な煙突から出る赤い煙のシーンのためでした。
この煙によって犯人の身元が割れます。
物語のキーとなるシーンです。
そこにインパクトを持たせるために、監督はあえて他のシーンをモノクロにし煙だけ赤にするという手法をとったのでした。
このシーンはあまりにも有名で、この後の映画に影響を与えています。
『踊る大捜査線』では同じようなシーンがあり、織田裕二演じる青島刑事が「天国と地獄だ」というセリフまであります。
さらにスピルバーグ監督の『シンドラーのリスト』では、モノクロの映画の中で赤い色のついたコートを着た女の子が登場します。
のちの作品でオマージュされるほど、黒澤監督がこだわったシーンでもありました。
こだま号へのこだわり
部屋から出て動きが大きくなる後半。
1番の見所は列車の中から身代金を落とす場面です。
このシーンはセットではなく、実際にこだま号を動かして行われています。
列車を借りるのに莫大なお金がかかっているため、NGを出すことは許されません。
現場は張り詰めた緊張感でいっぱいでした。
前半の長回しのようにNGを出せない緊張感が手に取るように伝わってきます。
リアルにこだわった黒澤監督らしい撮影方法で取られたシーンが車内のシーンなのです。
まとめ
黒澤監督が影響を与えた作品の1つである『天国と地獄』。
リアルにこだわり緊張感を伝えるために、たくさんのこだわりを持って作られた作品です。
また観客にインパクトを与えるために色の使い方や、音楽の使い方でもたくさんの9分がされています。
今見ても緊張感は現代作品に引けを取ら図、古さを感じない作品となっています。