1951年に公開された映画『遊星よりの物体X』は、のちにリメイクされるほど、宇宙人の侵略映画として金字塔的な存在のです。北極に墜落した謎の飛行物体を調査する空軍の大尉と科学者達。その関係は当時のアメリカの様子を描いたものでもありました。
『遊星よりの物体X』作品情報
タイトル | 遊星よりの物体X(The Thing from Another World) |
監督 | クリスティアン・ナイビイ |
公開 | 1952年5月1日 |
製作国 | アメリカ |
時間 | 1時間27分 |
あらすじ
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アラスカの観測基地を舞台に、発掘された氷塊の中から出現した吸血異星人と戦う軍人・科学者たち。
(出典:https://www.allcinema.net/cinema/23988)
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1950年代の初頭のアメリカ社会
映画『遊星よりの物体X』は、1951年にアメリカで公開された映画です。
宇宙人の侵略を描いたSFホラー映画ですが、この作品には当時のアメリカ社会が反映されています。
戦後6年ほどで公開された『遊星よりの物体X』を見た多くの観客の頭の中には、第二次世界大戦の記憶が生々しく残っていました。
それと同時に戦後急激に発展を遂げる自国の素晴らしさを肌で感じている年代でもあります。
もちろんそれは『遊星よりの物体X』の製作者達も同じでした。
この映画のプロデューサーのハワード・ホークスは、第一次世界大戦ではアメリカ陸軍航空部に入隊した人物でもあります。
アメリカの空軍の強さと賢さが、映画『遊星よりの物体X』の主人公のヘンドリー大尉に全て反映されていました。
『遊星よりの物体X』は、戦争を終結させアメリカを世界一の国にしたのは軍隊であるという軍国主義的な匂いのする作品でもありますが、それが当時の風潮でもあったのです。
当時の観客はこの作品を見て、アメリカ軍の素晴らしさを改めて感じていたのです。
科学者と空軍兵士
映画『遊星よりの物体X』の中でヘンドリー大尉率いるアメリカの空軍兵士たちが、勇敢に描かれていたのに対して、対極的な描かれ方をしていたのが科学者でした。
ヘンドリー大尉率は宇宙人(超人ニンジン)を始末しようとしますが、科学者のキャトリン博士は最後まで宇宙人と対話をしようと試みました。
宇宙人を敵視せず科学のために彼らから何かを学ぼうとしていたのがキャトリン博士でした。
しかし『遊星よりの物体X』の中ではキャトリン博士の行動は、事態を悪くするばかりです。
挙げ句の果てには、宇宙人と対話しようとしたキャトリン博士は宇宙人に殴られてしまいます。
『遊星よりの物体X』の科学者の描かれ方を、ホラー作家のスティーヴン・キングは彼の著書「死の舞踏: 恐怖についての10章」の中で「科学者を宥和主義者として描いている」と説明しています。
そしてその宥和主義を否定しているのが、『遊星よりの物体X』だと言っています。
戦後まもない1950年代の初頭のアメリカ国民にとって、第二次世界大戦のきっかけともなったイギリスのドイツに対する宥和政策は鮮明に記憶に残っていました。
そしてその宥和政策によって引き起こされてしまった第二次世界大戦。
当時のアメリカ国民の多くが宥和的な態度が効果がないと感じていたのです。
なので『遊星よりの物体X』の中で宥和的な科学者の行動は全て裏目に出てしまうように描かれていたのです。
結果人間に襲い掛かろうとする宇宙人を倒したのは、勇敢で攻撃的なアメリカ空軍の兵士たちでした。
科学者ではなく空軍兵士達の知恵で宇宙人を倒したことに、この映画の意味があったのです。
1950年代初頭のアメリカの社会の雰囲気が反映されているのが、『遊星よりの物体X』です。
そしてその雰囲気は第二次堺大戦後の世界というのが強く影響していたのです。
まとめ
SFホラーの金字塔的作品の映画『遊星よりの物体X』。
SFホラーとしてとても楽しめる作品ですが、この映画が作られた1950年代のアメリカの雰囲気を知っていると、それぞれの立場が理解できる作品になっていました。
アメリカ空軍の兵士や科学者の行動。
それには全て当時のアメリカ国民の気持ちが反映されていたのです。