優等生という型にはめられて生きる黒人のルース・エドガー。学校と両親から期待される彼は、いつしか息苦しさを感じるようになっていました。型にはめられてしまった自分の人生。そんな人生から抜け出したいけど、それを許してもらえないルース。彼を追い詰め苦しめる物。それは私たちの日常でも起きていることなのです。
『ルース・エドガー』作品情報
タイトル | ルース・エドガー(Luce) |
監督 | ジュリアス・オナー |
公開 | 2020年6月5日 |
製作国 | アメリカ |
時間 | 1時間49分 |
Rotten Tomatoes
あらすじ
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バージニア州アーリントンで白人の養父母と暮らす黒人の少年ルース。
アフリカの戦火の国で生まれた過酷なハンデを克服した彼は、文武両道に秀で、様々なルーツを持つ生徒たちの誰からも慕われている。
模範的な若者として称賛されるルースだったが、ある課題のレポートをきっかけに、同じアフリカ系の女性教師ウィルソンと対立するように。
ルースが危険な思想に染まっているのではというウィルソンの疑惑は、ルースの養父母にも疑念を生じさせていく。
(出典:https://eiga.com/movie/92621/)
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聖人なのか?怪物なのか?
成績優秀で学校からも両親からも期待されている高校生ルース・エドガー。
幼い頃にアフリカからアメリカにやって来た彼は、里親に引き取られアメリ人として生きるようになりました。
アフリカで暴力的な日常を過ごしていたルースは、アメリカで精神的な治療を受けながら誰からも愛される人物となっていきました。
彼は「困難を克服した模範的な黒人」という目で周囲から見られています。
そしてまた両親もルースの将来に大きな期待を抱いていました。
しかしそれがルースにとっては苦痛でしかなかったのです。
周りが勝手に決めた自分の印象。
その型通りにいないと、ルースは怪物として扱われてしまいます。
彼の人生は「聖人か怪物」しかなかったのです。
必死でいい子でいようと努力したルース。
しかし苦しくなってしまいました。
周りの期待や周りの目、全てがルースを押しつぶしそうだったのです。
しかし学校も両親もそんなルースの息苦しさに全く気がついていなかったのでした。
箱の中で生きる人生
ルースは自分が箱の中に入れられていると感じていました。
周りが作った箱の中で生きていると。
その苦痛をウィルソン先生に語りますが、ウィルソン先生はみんな同じだと言いました。
アメリカでは、みんな箱の中に入れられてしまうと。
箱とはステレオタイプのことです。
私たちは勝手に自分の周りの人を型にはめてしまっています。
そしてその型から出てしまった人を非難してしまいます。
そしてまた私たち自身も人の型の中で生きています。
気がつかないうちに、みんな箱の中に入れられていたのです。
映画ではアメリカと言っていましたが、きっと世界中で起きていることでしょう。
黒人だから、アジア人だから、男性だから、女性だから、若いから、大人だから、いくつでも箱ができてしまいます。
そんな箱の中でどうしたらいいのか分からないのがルースでした。
そしてその怒りの矛先がウィルソン先生に向かいました。
しかしウィルソン先生はルースにみんなはこの中に入れられていると言いました。
「いつかそれが分かる」とルースに言います。
それはウィルソン先生も箱の中に入れられているからです。
そして箱の中から出ないように必死に生きているのです。
彼女は箱の中で生きることが安全だと考えています。
黒人の彼女が歩いて来た道を想像すると、箱の中の方が安全なのかもしれません。
ステレオタイプ通りにいた方が、攻撃されないからです。
だから彼女はルースを自分の箱の中で守ろうとしていました。
それは両親も同じです。
しかしルースにとっては、もう箱の中にいることが限界だったのです。
大人たちがルースに何度も言う「守る」という言葉。
これは型にはめることなのです。
箱に閉じ込めてしまうと言うことだったのです。
自由を奪うシンボル
ルースは学校にとって、家族にとってシンボルでした。
私たちはシンボルを作ってしまう傾向があります。
シンボルがあると安心してしまうのです。
しかしシンボルにされた人は、それだけで自由を奪われてしまうのです。
知らず知らずのうちに、私たちは人の自由を奪ってしまっているのです。
そしてそれは私たちの周りの、日常生活の中でも普通に起きていることなのです。
まとめ
型にはめられた人生、型にはめてしまう人たち。
それぞれの視点から描いた映画『ルース・エドガー』。
ルースは苦しんでいるのに、誰もそれに気がついていません。
そして誰も彼を傷つけていると、自由を奪っていること思っていないのです。
型にはめられることがどれだけ苦しいことなのか、ルースを見ていると痛いくらいに伝わって来ました。