『この世界の片隅に』に新たに描いたシーンを使いして作成された『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』。前作同様すずさんの物語ですが、新しいドラマとなって大きな感動を与えてくれる物語になっています。追加されたシーンによって描き出される多くの人の人生。ここでは追加されたシーンをメインに物語を振り返っていきたいと思います。
『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』作品情報
タイトル | この世界の(さらにいくつもの)片隅に |
監督 | 片渕須直 |
公開 | 2019年12月20日 |
製作国 | 日本 |
時間 | 2時間48分 |
あらすじ
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日本が戦争のただ中にあった昭和19年、広島県・呉に嫁いだすずは、夫・周作とその家族に囲まれ、新たな生活を始める。
戦況の悪化に伴い生活も困窮していくが、すずは工夫を重ねて日々の暮らしを紡いでいく。
そんなある日、迷い込んだ遊郭でリンという女性と出会ったすずは、境遇は異なるものの、呉ではじめて出会った同世代の女性であるリンと心を通わせていくが……。
(出典:https://eiga.com/movie/89537/)
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遊郭での出会い
新たに使いされたいくつものシーンの中で、前回の『この世界の片隅に』のと大きく違うのはすずさんとリンさんとの出会いです。
前作でも描かれていた二人の関係は、今作ではもっと深いつながりを見せます。
すずさんはリンさんを訪ねて3回遊郭に向かいます。
1回目は道に迷って迷い込んだ遊郭。
しかし2回目、3回目は自分の意思で遊郭の中に入って行ったのでした。
自分のことを「ボーッとしている」と言うすずさんですが、自分の意思を持ってリンさんを訪ねました。
リンさんが書いて欲しいと言っていた絵を持ってリンさんを訪ねるすずさん。
しかもこの時は妊娠してないことが分かった後でした。
ハゲができるほほどストレスを抱えていたすずさん。
小姑との関係もそうですが、子供ができないこともすずさんには大きくのしかかっていました。
「子供を産むのが務め」と思い込んでいるすずさん。
そんなすずさんをリンさんは自分なりの表現で癒してあげます。
すずさんにとってリンさんは掛け替えのない友達となったのです。
しかし次に訪ねた時のすずさんの感情は少し違います。
周作さんがリンさんを好きだった、少なくとも二人には関係があったことに気がつき、リンさんに周作さんが買ったお茶碗を渡しに行ったすずさん。
気持ちは複雑だけど、すずさんにとってはリンさんは友達なのです。
周作さんがリンさんのために買ったお茶碗をどうしてもリンさんに渡したかったのでしょう。
遊郭から出ることも許されないリンさんに、すずさんなりに居場所を作ってあげたかったのかもしれません。
その遊郭で出会ったもう一人の少女テルちゃん。
風邪をひいている彼女のために、雪にテルちゃんの好きな南国の絵を描いてあげました。
いつもぼーっとしているすずさんがとても頼もしく見えた瞬間でもあります。
格子越しのテルちゃんもまた閉じ込められて世界にいる一人です。
すずさんはテルちゃんにも想像の中の居場所を作ってあげたのです。
慣れない呉にやってきて居場所がないと感じていたすずさんですが、遊郭では他の人に居場所を作ってあげようとするのがすずさんだったのです。
世界の片隅の人々
『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』は「さらにいくつもの」とあるように、すずさんの家族以外の人の人生もたくさん描かれていました。
それぞれのエピソードは短いけど、そこにはたくさんの人がいて彼らにも人生があるのです。
小林の伯父さん・知多さん
小林の伯父さんや知多さんは広島に原爆が落ちた後、救助に向かうために広島に入ります。
すずさん達の作ったわらじや救助物資を持って、呉の空襲の時に助けてもらったお礼をしようと向かいました。
その後、広島から戻ってきた彼らは調子が悪そうです。
小林の伯父さんははっきりと「広島から帰ってきて調子が悪い」と言っていましたし、知多さんはよろよろしながらきつそうに歩いていました。
彼らはその時まだ気がついていませんでしたが、彼らは広島に入ったことで被曝していたのです。
きっと二人以外に広島に入ったことで被爆してしまった人もたくさんいたはずです。
そしてその後、彼らがどうなってしまったか。
それはすずさんの妹すみちゃんと同じように先は描かれていませんが、彼らの先は想像できます。
そんな片隅の人たちにも今作では目が向けられていたのです。
江波の実家
広島に原爆が落ちた後、具合の悪いすみちゃんを訪ねたすずさん。
その帰りに江波の実家によりました。
爆風で家は傾いていました。
しかし中から音が聞こえ「お母さん」と思わず、お母さんが生きているのかもと勘違いしたすずさん。
しかしそこにいたのは3人の幼い子供でした。
きっと原爆で親とはぐれてしまい3人で空き家となったすずさんの家に住み着いたのでしょう。
ほんと一瞬のシーンでしたが、ここにも戦争孤児達の様子が描かれていました。
そしてそれは「彼らのその後の人生を想像してみて」と言う監督からの問いかけのようにも見えました。
円太郎
周作さんのお父さんの北条円太郎。
もちろん前作でも優しいお父さんとして描かれていましたが、今作ではお父さんの仕事場が描かれていました。
海軍の呉工廠に勤務するお父さん。
徹夜明けで帰ってくることもしばしばでした。
東洋一と呼ばれた呉工廠は戦艦「大和」の製造で有名でしたが、お父さんは戦闘機のエンジンを作っていました。
実際に呉工廠には第11海軍航空廠が設置されていました。
爆撃からすずさんと晴美ちゃんを守っている時お父さんは戦闘機のエンジン音の話をしていました。
自分の携わったエンジンに誇りを持っていたのでしょう。
呉工廠は1945年6月22日、激しい攻撃を受けます。
お父さんもこの時に大怪我を負ってしまったのでした。
優しく家族を見守っていたお父さんの仕事を見ることができた今作。
お父さんに呉の工廠で働いていた人達を重ねて、彼らの人生にもスポットライトが当てられていました。
まとめ
すずさんを通して、第二次世界大戦の中生き抜いた人たちの日常を感じることができた『この世界の片隅に』。
『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』では、さらにその周りにいる人たちの日常も見ることができて、必死だけど当たり前に生活をしていた人たちのことをより知ることができまいした。
1945年8月15日、戦争は終わりましたが人生が終わったわけではありません。
毎日毎日、日々は続くのです。
まだまだ食料もないし、台風雨もくるし、生活はずーっと続いていったのです。
そしてその生活が今の私たちに繋がっているのです。
あの時代を生きた普通の人たち。
それは今の私たちと何も変わらず、時代が違っただけなのだと今回改めて感じることができました。
そしてもっともっといろんな人に目を向けて、いろんな人の日常を感じていきたいとも思わせてくれる映画でした。