映画『野火』内容と感想 死ぬも地獄生きるも地獄 これが本当の戦争体験


塚本晋也監督により自主映画として製作されながらも大きな反響を呼んだ『野火』。ヴェネチア国際映画祭のコンペティション部門に出品された作品でもあります。第2次世界大戦中フィリピンのレイテ島で戦った日本軍。その島での体験は人を狂わせるほどのものでした。

『野火』作品情報

タイトル 野火
監督 塚本晋也
公開 2015年7月25日
製作国 日本
時間 1時間27分

『野火』あらすじ


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第2次世界大戦末期のフィリピン・レイテ島。
日本軍の敗戦が色濃くなった中、田村一等兵は結核を患い、部隊を追い出されて野戦病院行きを余儀なくされる。

しかし負傷兵だらけで食料も困窮している最中、少ない食料しか持ち合わせていない田村は早々に追い出され、ふたたび戻った部隊からも入隊を拒否される。そしてはてしない原野を彷徨うことになるのだった。

空腹と孤独、そして容赦なく照りつける太陽の熱さと戦いながら、田村が見たものは・・・

(出典:http://nobi-movie.com/story.html)


製作まで20年


野火(のび) (新潮文庫)

塚本晋也監督が大岡昇平さんの小説「野火」を読んだのは高校生の時でした。
その本から感じた恐怖感が頭から離れなかった監督。
映画監督として作品をつくるようになり、30歳を過ぎた頃に高校生の時に衝撃を受けた作品「野火」の映画化を考えました。

しかしその壮大なスケールからなかなか映画として実現しないままでした。
そのまま月日は流れてしまい、気がつけば当時レイテ島で戦争を経験した方達が80歳を超える年齢になってしまいます。

監督は焦りを感じ、戦争経験者の方の生の声を残そうとインタビューを開始します。
それが映画公開の10年前でした。
監督の映画にしたいという思いと同時に、なかなか進まない映画化。

1番の問題は資金にありました。
それでも世界全体の流れが変わり始め、また戦争が起きてもおかしくない方向に進む危機感を感じた監督は2015年に『野火』を公開しました。

戦争を体験した方の声をもとに、高校生の時に恐怖を覚えた作品の映画化。
今なぜ、この時期にこの作品が公開されたのには大きな意味があるのです。

この島で戦った兵士達に何があったのか。
そして本当の戦争の恐怖とはなんなのか。
この映画で人間を狂わせてしまう戦争の恐ろしさを、実感することが出来ます。

全てが地獄 それが戦争

肺を患ったことで自分のいた部隊を追い出され、さらに向かった野戦病院からも追い出されてしまった田村一等兵。
病院内には攻撃で怪我をした人が多く、彼は名誉の負傷ではないと言われてしまい追い出されます。
さらに持っていた食料も奪われてしまった田村一等兵。

からはこの島でたった1人孤独と空腹と戦うことになります。
芋を見つけ食べますが、生であったためにお腹を壊します。
さらに行くあてのない田村一等兵は島の中をさまよい続けました。

体力も気力も限界になりかけた頃、日本兵を見つけます。
彼らとともに行動をする田村一等兵ですたが、その先に待ち受けていたのは敵からの攻撃だけでした。
次々と倒れて行く仲間達。

もはや島の中はどこを歩いても死体ばかりでした。

この島の中にいることそれ自体が地獄だったのです。
どこに行っても地獄しかないのです。
なんとかして日本に帰りたいと思いますが、ここで生き残ることは死ぬことよりもきついことでした。

飢えによって気が狂い始める仲間。
味方だったはずの日本兵も敵になり殺し合いをするほどです。
そして食料が尽きた時、彼らが口にしたのは・・・。

田村一等兵は助けられ日本に戻ることが出来ますが、その時におった心の傷は一生消えることはありません。
決して自分の見たことしたことを口にすることはできない田村一等兵。
1人で全てを背負って生きて行くしかないのです。

それはレイテ島にいた時と同じほどの地獄でもありました。
日本に戻ってきても、戦争が終わっても彼の心の傷は癒えることはなかったのです。

感想

戦争の実態を嫌という程見せつける映画、それが『野火』です。

普通の人間をこれほどまでに狂わせてしまうのが戦争なのです。
無残な戦地の状態も恐怖ですが、何よりも狂ってしまう人間の様子が1番恐ろしいです。
そしてこれが戦争の実態だと思うと、本当に言葉がなくなってしまいます。

なんども目をそらしたくなるシーンが出てきますが、なぜだか逆にそのシーンに釘付けになります。
それは目をそらしてはいけない、これが戦争だから見なくてはいけないという監督の強い思いが伝わってきたからでしょう。

実際にこの島での戦いに参加した方の声を元に作られた映画。
だからこそ、きちんと作品と向き合って心に刻まなければいけないと思いました。

ただ、映画が終わった後しばらくは言葉にならない状態が続きました。
それだけ衝撃的な作品でした。