世界中で知られる物語『美女と野獣』。ディズニー映画としても有名な作品ですが、実は『美女と野獣』には2つの原作小説がありました。ここではそんな2つの原作小説と、それを元にして作られた3本の映画をご紹介したいと思います。
小説『美女と野獣』(ヴィルヌーヴ夫人)版
タイトル | 美女と野獣(La Belle et la Bête) |
作者 | ガブリエル=シュザンヌ・ド・ヴィルヌーヴ |
出版 | 1740年 |
あまり知られていない、ヴィルヌーヴ夫人の書いた小説『美女と野獣』。
実は最初に『美女と野獣』を書いたのは、フランスのヴィルヌーヴ夫人でした。
この物語では主人公のベルは12人兄妹の末っ子となっています。
また「ベル」というのは名前ではなく、彼女があまりにも美しかったので「ベル=美女」という名前でみんなから呼ばれていたと説明されています。
もちろんこのベルは私たちの知っているベルのように、彼女はとても心の優しい女性でした。
野獣に変えられてしまった王子様と心優しいベルの物語は世界中で知られているお話ですが、特にこのヴィルヌーヴ夫人版では「感謝の気持ちに従いなさい」という言葉が繰り返されます。
ベルの側に妖精が出てきて、「うわべの誘惑に負けないようにしなさい」とベルにアドバイスを送ります。
その言葉の通り、夢に出てくる美しい王子様への想いを募らせながらも、野獣の優しさにも惹かれるベルの葛藤が描かれているのがヴィルヌーヴ夫人版の『美女と野獣』です。
さらに、野獣とベルが結ばれて終わりではなく、その後も物語は続きます。
王子様が野獣に変えられてしまった理由、さらにはベルの出生の秘密など、私たちの知らない『美女と野獣』の結末が書かれています。
それは単なる「野獣」と「ベル」のラブストーリーではなく、2人を取り巻く周囲の憎悪と愛に満ちた物語になっていました。
「愛」が巻き起こす美しいものだけでなく憎しみや嫉妬を描いたのが、1740年に出版されたヴィルヌーヴ夫人版の『美女と野獣』なのです。
小説『美女と野獣』(ボーモン夫人)版
タイトル | 美女と野獣(La Belle et la Bête) |
作者 | ジャンヌ=マリー・ルプランス・ド・ボーモン |
出版 | 1756年 |
1756年に出版されたボーモン夫人の『美女と野獣』は、1740年に出版されたヴィルヌーヴ夫人の『美女と野獣』が元になっているとされています。
ボーモン夫人は出典は明記していませんでしたが、「他人の著作物の中でも利用できそうなものは拝借して自分流に書きかえた」と前書きで説明しています。
教育本を出版していた彼女は、ヴィルヌーヴ夫人の『美女と野獣』を要約して子供のための『美女と野獣』に書き換えたのです。
そしてこれが、私たちのよく知っている『美女と野獣』の元になっています。
長い物語をかなり短くしたボーモン夫人の『美女と野獣』は、野獣が王子様に戻りベルと結ばれてからの物語は全てカットされています。
ベルにいた11人の兄妹も減らして、3人の兄と2人の姉がいることにしました。
この2人の姉はかなり意地悪で、シンデレラに出てくる意地悪な姉のような設定です。
ちなみにこの2人の姉に待ち受けている運命は、ヴィルヌーヴ夫人版の『美女と野獣』よりもかなり恐ろしいものになっていました。
ヴィルヌーヴ夫人の恋愛小説から、子供のために書き換えられたボーモン夫人の『美女と野獣』は、「美しさや知性よりも美徳を大切にしなさい」という教えが書かれています。
そして美徳を選んだベルは幸せになり、悪意を持った2人の姉は不幸になってしまうという終わり方になっていました。
『美女と野獣』(1946年)
タイトル | 美女と野獣(La Belle et la Bête) |
監督 | ジャン・コクトー |
公開 | 1948年1月27日 |
製作国 | フランス |
時間 | 1時間36分 |
あらすじ
[aside type=”normal”]
三人の娘を持つ商人が旅の途中、無人の古城に迷い込む。
庭園のバラの花を摘むと、野獣が現れ、花盗人の命をもらうと脅したが、娘のうち一人が父の身代わりになるなら許すと言う。
家に帰って父が話すと、末娘のベルが城行きを志願。
会ってみれば野獣は心優しかった。
(出典:https://www.allcinema.net/cinema/19081)
[/aside]
ジャン・コクトー版『美女と野獣』
ジャン・コクトーが手がけた『美女と野獣』は、基本的にはボーモン夫人の『美女と野獣』を元に作られています。
映画の冒頭「子供に帰ってみませんか?」という、説明書きが出てくるのでこの物語が子供のお話を元にしていることが分かります。
ただし、この作品で描かれる野獣の住むお城は、子供の物語にしてはとても怖い館になっていました。
[box class=”yellow_box” title=””]・壁から突き出た腕が燭台を持っている
・テーブルから手が突き出し、飲み物を注いでくれる
・暖炉の装飾には人間の動く彫刻[/box]
などかなり恐ろしく不気味なお城として描かれていました。
[box class=”yellow_box” title=””]この恐ろしさは、あのエイリアンの生みの親と言われるH .R .ギーガーも、「幼い頃に初めてこの『美女と野獣』のお城の中の写真を見た時のことを鮮明に覚えている」と言っているほどです。[/box]
またジャン・コクトーの『美女と野獣』が原作の2つの小説と大きく違うのは、ここで初めてアヴナンという男性が登場します。
小説にもベルに求婚する男性は描かれていましたが、名前はありませんでした。
この作品ではアヴナンという名前で、かなり横暴な性格の男性になっています。
そして彼は、野獣を倒しベルを奪うためそして野獣の持っている財宝を得るためにお城に向かいます。
「野獣を倒すためにお城に向かう」という設定は、このジャン・コクトー版で初めて描かれた描写でした。
そのアヴナンですが結局、野獣と戦うことはありませんでしたが彼に待っていたのは悲しき運命でした。
ボーモン夫人の『美女と野獣』では、ベルの姉2人に悲しき運命が待っていましたが、こちらの作品では横暴ですぐに暴力を振るうアヴナンに悲惨な運命が待っていました。
一方、ベルは小説通り野獣から人間に戻った王子様と幸せになります。
自分の醜さに苦しむ野獣をベルの愛が救う物語になっていました。
「愛」が「醜い男」を「美しい人」に変える物語が、ジャン・コクトーの作った『美女と野獣』です。
ちなみに王子様が野獣になった理由は、彼の両親が神を信じなかったのでその罰として息子が野獣に変えられたということになっていました。
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『美女と野獣』(1991年)
タイトル | 美女と野獣(Beauty and the Beast ) |
監督 | ゲーリー・トゥルースデイル/カーク・ワイズ |
公開 | 1992年9月23日 |
製作国 | アメリカ |
時間 | 1時間24分 |
[box class=”red_box” title=”アカデミー賞受賞”]・作曲賞
・歌曲賞:セリーヌ・ディオン&ピーボ・ブライソン「ビューティー・アンド・ザ・ビースト〜美女と野獣」[/box]
あらすじ
(引用:MIHOシネマ)
ディズニー・アニメ版『美女と野獣』
1991年にディズニーのアニメとして制作された『美女と野獣』。
こちらの作品は、ボーモン夫人の『美女と野獣』+ジャン・コクトーの『美女と野獣』という形になっていました。
基本的にはボーモン夫人の物語をベースにしながらも、ベルを好きな自惚れ屋のガストンが野獣を倒しにお城に向かう流れはジャン・コクトーの作品が元になっています。
ただし、このアニメ版で今までの『美女と野獣』と大きく違うのは、ベルの優しさが野獣に変えられてしまったわがままで思いやりのない王子様の心を変えるという描写です。
今までは、ベルの優しさが野獣から王子様へ見た目を戻したという感じでしたが、ディズニーアニメではベルが王子様の内面を変えたことを強く描いていました。
またベルの設定も今までと少し変わっていて、美しいのは同じですが、街で「変わり者」と思われているのがベルです。
ベルは本が大好きですが、それを街の人は快く思っていません。
しかし、この本好きがベルと野獣を強く結びつけるきっかけになります。
もう1つ違うのが「バラ」です。
これまではベルのお父さんが野獣の薔薇を摘んだことで野獣の怒りをかいますが、この作品での「バラ」の役割は、王子様がかけられた呪いの期限を示しています。
「薔薇の花が散ると二度と呪いは解けない」、これがディズニー・アニメ版の『美女と野獣』のバラの意味になっていました。
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『美女と野獣』(2017年)
タイトル | 美女と野獣(Beauty and the Beast) |
監督 | ビル・コンドン |
公開 | 2017年4月21日 |
製作国 | アメリカ |
時間 | 2時間09分 |
あらすじ
(引用:MIHOシネマ)
ディズニー・実写版『美女と野獣』
2017年に制作された実写版の『美女と野獣』。
もちろんディズニーが手がけているので、こちらの作品は1991年のアニメ版『美女と野獣』が元になっています。
でも、父親が薔薇を摘んでしまい野獣を怒らせてしまう様子は、原作の小説に描かれている内容です。
さらに、野獣の住むお城の入口には、壁から突き出た腕が持つ街灯がありました。
これはジャン・コクトーの『美女と野獣』に出てきたお城を思い出させる装飾です。
なので、2017年の『美女と野獣』は、アニメ版だけでなく2つの原作小説さらにはジャン・コクトーの『美女と野獣』と、これまでの『美女と野獣』を合わせた映画になっていました。
さらに、そこにベルの母親の物語などオリジナルストーリーも追加され、現代の『美女と野獣』に生まれ変わりました。
元々ベルは心優しく美しい女性ですが、時代の流れとともにベルは本が大好きで知性も持ち合わせる女性へと変化しました。
そしてそのベルは、自分を犠牲にして家族を守った母親譲りの強い性格の持ち主でもありました。
アニメ版と同じように、ベルは彼女の優しさと知性で傲慢な野獣の心を変えます。
ベルは野獣に『美は内面に宿る』ということを教え、野獣を呪いから救ったのでした。
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まとめ
世界中で多くの人に愛される作品『美女と野獣』。
ディズニーの作品で知ったという方も多いと思いますが、実は原作小説は2つありディズニー以外でも映像化されていました。
『美女と野獣』は時代に合わせて変化しながらも、いまだに多くの人を魅了し続ける作品です。
そしてこれから先もずっと語り継がれる物語なのです。
ぜひ、この機会に色んな『美女と野獣』に触れてみてください。