戦争のPTSDに悩む退役軍人の父親。彼は娘トムを連れて社会から離れて生活することを選びました。そんな親子に手を差し伸べようとする社会。しかしそれは父親の望む暮らしではありませんでした。PTSDで悩む人に薬を与え一方的に社会に戻そうとする政府。しかしそれは彼らが本当に望んでいることなのでしょうか?
『足跡はかき消して』作品情報
タイトル | 足跡はかき消して(Leave No Trace) |
監督 | デブラ・グラニック |
公開 | 2019年4月3日 |
製作国 | アメリカ |
時間 | 1時間49分 |
Rotten Tomatoes
あらすじ
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PTSDに苦しむ退役軍人ウィルは、13歳の娘トムとともにオレゴン州ポートランドの森の中で人目を避けるように暮らしていた。
ところがある日、散歩していたトムがジョギング中の男性に見つかり通報されてしまう。
福祉局の監視下に置かれることになった父娘は、強制的に社会復帰支援を受けることになるが……。
(出典:https://eiga.com/movie/90832/)
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PTSDを抱える退役軍人
ポートランドの森林公園内で娘と暮らすウィル。
彼らは退役軍人でPTSDに苦しんでいました。
そんな彼に対して政府は抗不安薬などを与えるだけで、彼らの心に向き合おうとしません。
ウィルのように悩み苦しんでいる人はたくさんいました。
ウィルの娘トムが父親の持っていた荷物の中には「自殺願望に悩む部隊 生きようともがく」と言う見出しの記事が載っています。
途中でウィル親子をトラックに乗せてくれた運転手は「鎮痛薬依存症の人がたくさんいる」とウィルに教えます。
依存症になり家族や人生を崩壊させている人がいるとウィル言いました。
ウィルは薬には依存していませんでしたが、彼も人生や家族を崩壊させてしまった1人だったのです。
なんとかして今の生活を脱出しようと考えるウィルでしたが、戦争の悪夢を見続け彼は社会に適合することができないのです。
そしてやはりウィルの居場所は社会から離れた場所、森の中しかなかったのです。
映画『足跡はかき消して』はウィル親子の生活を描いていますが、同じような人がたくさんいるのが現在の実態です。
森林公園で暮らすホームレスもそうでしょうし、ウィルの向かった森の中では姿は見せませんがボランティアの食料をもらい森で暮らす人がいます。
これが今の現状なのです。
どうしても社会に適応できない人たち。
彼らは一方的に社会に戻しても社会に適応することができません。
彼らはそれほど心に大きな傷を負っているのです。
映画の最後ウィルは1人森の中に戻っていきました。
今のウィルの居場所は森しかありません。
ウィルのような人に対したどうしていくのか。
彼らにどのように向かっていくのか。
そんな問題を定義しているのが映画『足跡はかき消して』なのです。
森の中のコミュニティ
ウィルは森の中で暮らすことを選びましたが、娘のトムは森の中のコミュニティで暮らすことを選びます。
このコミュニティの人達は森の中でキャンピングカーで暮らす人達です。
彼らもウィルのように社会から離れた生活を送っていますが、ウィルと違うのは小さな社会を築いていることです。
同じように心に傷を負った人たちが集まり、一緒に暮らすコミュニティ。
ここの暮らしにトムは興味を持っているようでした。
確かにトムは父親の教育のおかげで学力も高いし、サバイル能力も高いです。
それでもやはり社会とつながっていない生活を送り続けることは、トムにとっていいことではありません。
それはトム自身も理解していたし、きっとウィルも分かっていたのかもしれません。
だからウィルはトムがコミュニティに残ることを許しました。
彼女の人生を思って離れて暮らすことを選んだのです。
自分たちなりに心の傷と向き合い、助け合いながら暮らすコミュニティ。
最低限のルールの中で自由に生きる彼らは、ゆったりした時間の中で自分の人生を楽しんでいました。
その中できっとトムは自分の居場所を見つけ出し成長していくでしょう。
そしていつかきっと父親が立ち直ることを待ち続けています。
彼女が森の中に置いていった食料。
それが彼女の父への愛情の印なのです。
まとめ
PTSDに悩み社会から離れた暮らしを送る親子を描いた『足跡はかき消して』。
彼らが負った傷は薬や強制的な社会復帰では、決して癒されることのない深い傷なのです。
社会から離れることを望む人たち。
それは戻りたくても戻れない人たちで、形は違えど様々な場所にそんな人たがたくさんいるのです。
映画『足跡はかき消して』は、そんな社会に戻れない人たちの現実が描かれている映画です。