映画『シェイプ・オブ・ウォーター』の半魚人が表す1960年代のアメリカの差別

1962年が舞台の映画『シェイプ・オブ・ウォーター』は、半魚人と言葉を失った女性の恋愛を描いた物語でしたが、映画の中に登場した半魚人は1960年代前半のアメリカの差別を象徴する物でもありました。半魚人が象徴した当時のアメリカの差別を振り返っていきたいと思います。

目次

『シェイプ・オブ・ウォーター』作品情報


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タイトル シェイプ・オブ・ウォーター(The Shape of Water)
監督 ギレルモ・デル・トロ
公開 2018年3月1日
製作国 アメリカ
時間 2時間03分

Rotten Tomatoes

あらすじ

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1962年、アメリカ。

政府の極秘研究所で清掃員として働くイライザはある日、施設に運び込まれた不思議な生きものを清掃の合間に盗み見てしまう。

“彼”の奇妙だが、どこか魅惑的な姿に心を奪われた彼女は、周囲の目を盗んで会いに行くようになる。

幼い頃のトラウマからイライザは声が出せないが、“彼”とのコミュニケーションに言葉は必要なかった。

次第に二人は心を通わせ始めるが、イライザは間もなく“彼”が実験の犠牲になることを知ってしまう。

“彼”を救うため、彼女は国を相手に立ち上がるのだが——。

(出典:http://www.foxmovies-jp.com/shapeofwater/)

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[box class=”red_box” title=”アカデミー賞受賞”]作品賞
監督賞
作曲賞
美術賞[/box]

1962年のアメリカ

『シェイプ・オブ・ウォーター』の舞台は1962年のアメリカです。
そのアメリカで政府の秘密機関がアマゾンで捕まえた半魚人を研究し生体解剖しようとしていました。

なぜ政府が半魚人を研究していたかのは、当時のアメリカとソ連の状況に関係しています。
1962年といえば、アメリカとソ連の冷戦によって核戦争が起きる一歩手前までいった年でもありました。

冷戦の中で2つの大国が1番危機的な状況だった1962年に半魚人を見つけたアメリカは、半魚人を研究することでソ連よりも先を行こうとしていたのです。
だから半魚人を生体解剖しようとし、兵器として利用できないか研究しようとしたのです。

一方、政府機関に入り込んでいたスパイから情報を得たソ連側は、半魚人を殺すように指示を出します。
それはアメリカに研究されないために、半魚人を消してしまおうと考えたのでした。

そんな政治的な背景のあった1962年ですが、半魚人が象徴していたのはアメリカ国内で起きていた状況でもありました。

半魚人の描いた差別

ソ連との戦いのために研究されようとした半魚人でしたが、それは人間と違う生物に対する差別からきたものでもありました。

『シェイプ・オブ・ウォーター』の中で半魚人が象徴した差別とは1960年代前半にアメリカ国内で起きていたものでした。

そしてまた半魚人を助けた人たちは、当時の様々な差別との戦いと重なるのです。

公民権運動

政府機関で掃除をする黒人女性のゼルダに対して、ストリックランドは差別的な態度で接します。

またジャイルズが通っていたダイナーの男性は、黒人の客が来ると彼らを追い出してしまいます。
しかも「うちは健全なお店だ」と言って、自分が正しいように言います。

これは当時のアメリカそのものでした。
黒人に対する差別は1960年代も続いており、さらにこの頃は平等を求める黒人たちの公民権運動がピークを迎える頃です。

黒人差別に対する戦いが始まっていて、白人専用の席に黒人が座ったり黒人と白人が一緒にバスに乗り南部の差別が続く街を訪れるという行動が行われていた頃でもあります。

ゼルダが最初は戸惑いながらもイライザが半魚人を助ける計画に協力したのは、黒人として差別されている自分や、夫からも女性軽視を受けている自分を半魚人に重ねたらからだったのかもしれません。

同性愛者差別

またもう1人イライザの計画に協力したのが、イライザの友人であるゲイのジャイルズでした。

彼はダイナーの若い男性に恋をしてしまいますが、相手はゲイを差別する人でもありました。
ゲイであることを隠し続け孤独を感じたジャイルズのまた、半魚人に自分を重ねまた声が出ないことで孤独を感じているイライザを助けたいと思ったのです。

今でこそ少しずつカミングアウトできる社会になってきましたが、当時のアメリカで同性愛をカミングアウトすることはとても危険なことでした。
警察により不当な扱いを受けたり、同性愛を反対する人たちから襲われることもありました。

孤独だったジャイルズにとって、半魚人は自分と同じだと感じたのかもしれません。

女性解放運動

公民権運動とともに1960年代前半のアメリカでは女性解放運動が起こった時でもありました。

専業主婦が当たり前時代に、女性の社会進出が起こりました。
『シェイプ・オブ・ウォーター』の中のストリックランドは、男性史上主義的な考えを強く持っている人物でもあります。
それはまたゼルダの夫もそうでした。

そんな男性たちに対して立ち上がった女性たち。
イライザやゼルダはそんな女性を象徴しています。

だから彼女たちは女性を差別する男性に逆らい、半魚人を助けたのです。

学びポイント

半魚人と人間の恋を描いた『シェイプ・オブ・ウォーター』では、当時のアメリカの国大的な政治情勢や、国内で起きていた差別に対する問題が描かれていました。

この時代は公民権運動や女性解放運動さらには同性愛者達の権利獲得の運動なども起き、アメリカの転換期でもありました。

ファンタジー映画を通して差別され孤独な人たちの心を描きながらまた、差別に屈することなく立ち上がり戦う人達が描かれた映画にもなっていました。


シェイプ・オブ・ウォーター (竹書房文庫)

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