コミック界の王と呼ばれるジャック・カービー。「キャプテン・アメリカ」や「超人ハルク」など多くのアメコミヒーローを生み出しました。彼が世に送り出したキャラクターの多くは、第二次世界大戦中に経験した彼の戦争体験が元になっていました。彼の作品には戦争への怒りが込められていたのです。
『コミック王の従軍物語』作品情報
タイトル | コミック王の従軍物語(Kirby at War: La Guerre De Kirby) |
監督 | マルク・アゼマ/ジャン・デプレ |
公開 | 2017年11月20日 |
製作国 | フランス |
あらすじ
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ニューヨークに生まれ育ったカービーは、新婚さめやらぬ頃に従軍。
GIとしてフランス北部でナチス軍と戦い、死の危機に何度も直面した。
脳裏に焼きついた爆破や血痕を「アベンジャーズ」などの作品で、無数の点として漫画に表現。
恐怖におののく顔や、グロテスクな悪人の表情も、戦争体験から生み出されたという。
実写映像とアニメを組み合わせたシーンや、再現ドラマを駆使した“コミック風”の演出でつづる、コミック王の従軍記。
(出典:https://www.nhk.or.jp/docudocu/program/253/2145699/)
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ジャック・カービー
コミック界の王と呼ばれるジャック・カービー。
彼は1917年ニューヨークのロウアー・イースト・サイドで生まれました。
ユダヤ系オーストラリア人の両親を持つジャック・カービー。
移民がひしめき合う貧しい地区で育ったカービーでしたが、コミックを描くことが彼を非行から救いました。
1930年代〜40年代にかけてアメリカではアメコミブームが起きていました。
カービーはジョー・サイモンとともに『キャプテン・アメリカ』を作り大成功を納めました。
Captain America Masterworks Vol. 1 (Tales of Suspense (1959-1968)) (English Edition)
戦争経験から生み出されたヒーロー達
1943年にカービーは徴兵されます。
1944年8月23日カービーはオマハビーチに上陸します。
そしてカービーはその後、ドイツ軍との激しい戦争を経験することになりました。
妻に宛てた手紙に「別の惑星」と書いてあるほど、今までの暮らしとは違う出来事が起きていました。
カービーが所属していた第3軍第5歩兵師団は軍司令官パットン将軍の元、攻略目的地であるメスを目指します。
その途中でモーゼス川を越えなくてはならず、ドルノで川を越えようとした部隊はドイツ軍のもう攻撃に合い1200人中945人が死傷してしまいます。
このときの悲惨な戦いにより、カービーは心に消えない傷を追うことになりました。
この時の経験が戦後のカービーの作品に大きく影響し、怒りが込められた過激な描写になっていきました。
勇敢な兵士達をスーパーヒーローに、ライフルやバズーカー砲が大量破壊兵器へとなりました。
さらに次々とモンスターを生み出します。
そして宇宙戦争はこの時経験した戦争体験を反映していました。
また宿営地で投降したドイツ兵に出会います。
この経験がスーパービランにもなっています。
トラウマを作品へ
1944年10月カービーは塹壕で待機することになりました。
寒く雨が降り続く中での待機で、足元は常に濡れている状態でした。
その後メスにいるドイツ軍に攻め込むために、雪の中を歩き続けたカービー。
この時彼は塹壕足を患い歩けなくなってしまいました。
感染症により明日を切断するかもしれない状況に追い込まれてしまったカービー。
運よくカービーは足を切断する事なく病気は治りましたが、この時の苦しい体験が「X-メン」に登場する車椅子のプロフェッサーXを作り出したのです。
X-Men Masterworks Vol. 1 (English Edition)
カービーは塹壕の中で見た爆発や周囲の血しぶきを、抽象的な丸を繋ぎ合わせたものとして描きます。
これがのちにカービークラックルと呼ばれ、カービーの作品でエネルギーを表す時に使われるようになります。
カービーは戦後、戦争体験を多くの作品にしました。
戦わなくてはいけなかった状況、それは感覚を麻痺させるものでもありました。
そんな恐怖と怒りからカービーは多くの作品を作りました。
「戦争はいかれてる。正しいとは思わない」と言っていたカービー。
彼は心に傷を負いながらも、それをアメコミ作品という形で私たちに戦争の恐怖を伝え続けたのでした。
まとめ
スタン・リーとともにコミック界を牽引して来たジャック・カービー。
第二次世界大戦で経験した惨劇が彼の作品の元になっていました。
戦争によって心に深い消えない傷を追ってしまったカービーは、自分の体験をヒーローの口を通して語りました。
また彼のトラウマが怪物やビランを誕生させたのです。
彼の作品は戦争の恐怖と怒りが込められている作品でもあったのです。